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西山繭子の「それでも恋がしたいんだ!」第七十四回目。

西山繭子さんの人気連載コラム「それでも恋がしたいんだ!」。第七十三回目の今回は、あるラーメン店で巡らせた気持ちについてお話してくれました。

ラーメン店でつけ麺をすすっていた時のことです。

「これ、良かったら使って下さい」とお店のお兄さんが、私の前にアメピンが入ったケースを置きました。

三ヵ月以上美容院に行っていないために伸びきった私の前髪は、つけ麺をすするたびにはらはらと落ちていました。それを押さえながら食べている私を見かねてお兄さんが置いてくれたのです。

私はアメピンを見つめながらしばし呆然。ここ最近のラーメン店のサービス事情はわかりませんが、私にとっては初めての経験。そして、このコラムを読んでくださっている方は知っていると思いますが、私の心には『モテないマインド』が巣食っているので、もうこんなサービスをされたら勘違い警報発令なわけですよ。

 

ああ、今、私のことをこれほどまでに見てくれているのはこの人しかいない。そして、私にこんなに優しくしてくれるのもこの人しかいない。でも待って。彼は誰にでも優しいタイプかもしれない。今までそんな男に散々泣かされてきたわ。私は、少し冷静になってゆっくりと回りを見渡しました。アメピンが置いてあるのは…、私の前だけ。そうわかった途端に目の前のアメピンが結婚指輪のように思えてきました。このアメピンを前髪につけることは、彼からのプロポーズを受けるということ。忙しそうにフロアを動き回る彼を盗み見ながら、しばし考えました。彼って…、正社員?バイト? 

若かりし頃ならまだしも40歳になって結婚後に今より貧しい暮しになるのは、ちょっと耐えられないかも。でも食べ終わったお客さんに「ありがとうございます!」と声をかける彼を見ていると、あの誠実さがあれば乗り越えられるという気にもなってくる。

 

ああ、いったい私はどうしたらいいの?お昼につけ麺を食べたいと思ったばかりに、こんなことになるなんて。

私は空になったグラスを満たそうと、目の前にあるポットを手にとりました。ここはひとまず水でも飲んで気持ちを落ち着かせようじゃないか、そう思いポットを傾けると、中からは湯気のたつ液体が。おばさん、氷の入ったグラスにスープ割りを入れてしまうという大失態。白濁したスープが入ったグラスを前に肩を落とす私。

 

しかしそんな私にも、彼はすぐに気づいてくれました。「新しいグラスをお持ちしますね」笑顔の彼に、私の心は決まりました。私はケースからアメピンを取り出し、前髪を止めました。ぴっちり七三にとめたのは、私の誠意です。しかし「こちらをお使いください」と新しいグラスを持って来た彼は、アメピンをつけた私を見ても顔色一つ変えません。

 

まただわ。人の心を弄んで、その気にさせて。どうして、いつもそうなの?

私が紛失した傘を探してくれた駅員さんも、棚の作り方を教えてくれたホームセンターの店員さんも、そしてアメピンをくれた彼も、最初からその気がないなら優しくしないでよ!中途半端な優しさなんて欲しくない!店を出た私は、煮え切らない思いで仕事場に向かいました。電車に30分ほど揺られ到着すると「西山さん、その髪型わざと?」と私を見たスタッフが笑いました。やだ、ずっと七三のままだったわ。これも全部、あいつのせい。私の気持ちを弄んだあいつのせい。今度こそ、素敵な恋をしてやるんだから!と、私はアメピンをゴミ箱に投げ捨てました。

 

Written by 西山繭子


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この記事を書いたライター

日本の女優、作家。東京都出身。 大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。 テレビドラマを始め、女優として活動。 最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。 著書に 『バンクーバーの朝日』 『色鉛筆専門店』 『しょーとほーぷ』 『ワクちん』 などがある。 オフィシャルサイト→FLaMme official websiteオフィシャルブログ→ameblo
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