大人女子のためのWebメディア
検索

西山繭子の「それでも恋がしたいんだ!」第百九回目。

おとなの恋愛に物申す

 

さてさて、いざオスカルのフラットへと向かった私たちですが(初めて読む方はぜひ前回からご覧ください)、オスカルは気がせっているのか歩く速度が異常に早い。お互いの腕を組みながらセーヌ河沿いを恋人同士のように歩いているはずなのに、まるで競歩。

「オスカル、もっとゆっくり歩いてくれない?」「あわわわわわ、ごめんね」

 

彼のフラットはパリ11区にあり、いつも観光客でごった返している街が嘘のように静かです。

「ここだよ」そう言って彼が立ち止まった目の前には赤い鉄製の大きな扉が。え?倉庫?オスカル、倉庫に住んでるの?不安にかられる私の隣で、オスカルがボタンキーを押すと扉が大きな金属音を立てて開きました。

 

そして次の瞬間、私は思わず日本語で「わー!パリっぽい!」と歓喜の声をあげました。扉の向こうには花で彩られた中庭があり、それをぐるりと囲むようにアパルトマンが立っています。

 

「C’est joli!(かわいい)」飛び跳ねる私に彼は「ここは綺麗だけど、僕のフラットは本当に狭いんだ」と言い、細い螺旋階段を上って行きます。そして3階にあるフラットに到着。

 

ビールとバイクとサッカーをこよなく愛するオスカルのことだから、どうせきったない高校生男子の部屋みたいだろうなと予想していたのですが、「Princess,Welcome to my palace」と促されて入った部屋は、まさかまさかのとってもお洒落な空間でありました。

 

確かに広さは30平米ほどで、広いとは言えないけれど置かれたテーブルやスツールといった家具は、一つ一つちゃんと選んだのだろうなと好感の持てるセンス。物がまったくない私の家よりもはるかに女子力が高い。

 

「開けていい?」と訊きながらキッチンの扉を片っ端から開けていく私に、オスカルは「お母さんがうちに来た時も同じことしてたよ」と笑います。おばちゃんの興味の対象は万国共通ですなあ。

 

ひと通り家宅捜索が終わり、ソファに座った私にオスカルは赤ワインを開けてくれました。私たちは再びつたない英語での会話を始めます。オスカルが半年前にフラれた女の子の話に爆笑したり、彼の両親が結婚をしていないことを知って文化の違いに驚いたり、その間オスカルは私の隣には座らず、ずっと大きな窓の下に置いたスツールに腰をおろしタバコを吸っていました。その吸い方から彼が極度に緊張しているのがわかりました。ここで何とか一発キメたい若者が一人。そして葛藤中のおばさんが一人。

 

実は先ほどトイレを借りた時、私は自分がはいていたパンツに絶望したのです。私がこよなく愛するワコールのめでたい真っ赤な福パンツ。綿素材でお腹がすっぽり隠れるデカパンな上に招き猫のアップリケまでついている。お気に入りだけど、今じゃない!

フランスの下着といえばうっすうすのエッロエロで、しかも下着の下はツッルツルの全剃りが当然だという噂。「だめだ、こりゃ」脳内にいかりや長介さんの声が響きます。

 

「オスカル、タバコ吸いすぎだよ」ソファから立ち上がった私はオスカルが吸っていたタバコをとりあげ、ぷくーっと一服。煙は大きな窓からパリの夜空へと消えていきます。

 

「いい景色だね」「そう?屋根しか見えないのに?」「私にとっては、屋根すら美しいんだよ。だってここはパリだから」

 

オスカルは、ぼんやり夜空を見上げていた私を自分の膝の上に座らせました。ああ、私はなぜこんな素敵な夜に福パンツをはいてきてしまったのだろうか。彼の柔らかい髪の毛をなでながら、己の詰めの甘さにがっかりなパリの夜なのでありました。


【この記事も読まれています】
ブックマーク LINEで送る

Grappsにいいね!して最新の情報を受け取ろう!

この記事を書いたライター

日本の女優、作家。東京都出身。 大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。 テレビドラマを始め、女優として活動。 最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。 著書に 『バンクーバーの朝日』 『色鉛筆専門店』 『しょーとほーぷ』 『ワクちん』 などがある。 オフィシャルサイト→FLaMme official websiteオフィシャルブログ→ameblo
アプリでGrappsが
サクサク読める♪

5000本以上の記事が読み放題♪悩める女性のバイブルGrappsを 電車の中でも移動中でも快適にチェックすることができます。