VIRON、Joel Robuchon、Main Mano、Troisgios、LA SOEUR、BRETONNE、noix de beurre、Le Grenier a Pain。これらは全て、ここ最近、私がカヌレを食べたお店です。
カヌレとはフランスはボルドー地方の伝統的な焼菓子。見れば多くの人が「ああ、知っている」という特徴的な形をしています。VIRONでバゲットを買った時に、小さくてポイと口に入れられそうという理由で一緒に買ったのが発端でした。もちろんこれまでも食べたことはありましたが、さほど思い入れもなく今日まで過ごしてきました。ところが年齢を重ねて味覚が変わったのか、味から食感から全てが好みのお菓子だということに気づいた44歳の春。
それからはダイエット中ということも忘れ、デパ地下に行けばカヌレを探し、街でパン屋を見かければ入ってカヌレの有無を訊くといった調子。そうして数々のお店で食べ比べ、それぞれの店の特徴を吟味した結果、1つの結論にたどり着きました。基本的にカヌレは全部美味しいです。どこの店のも美味しいです。ああ、完全に食レポができない人の感想ですね。
これまでの仕事を思い返しても、食レポの際は基本的に「美味しい」としか言っていなかったように思います。唯一、他の言葉を使ったのはウルルン滞在記で訪れたモロッコでバッタを食べて「ビールに合いそう」と言ったぐらい。しかしディレクター的にはつまらないコメントだったようで編集でカットされていました。職業柄、普段から言葉や表現は大切にしているつもりですが、美味しいものを前にすると、もうそんなことはどこ吹く風。「美味しい!」「美味しいー!」「美味しいいいいー!」といった具合で、語彙力ゼロと化してしまいます。でも食事をしている際に「どこどこの何々はこれこれで」なんて蘊蓄を語るよりは良いかなとも思います。
ここ最近では、コロナの新規感染者数はまだまだ多いものの、まん防もあけて外食のお誘いもちらほらと入るようになりました。先日はフランス語のクラスメイトであるマダムに根津にある焼鳥屋さんに連れて行っていただきました。この2年間、マダムと私は毎週同じクラスを受けていました。
しかし、ここしばらくは予習復習をしようにも膨大な宿題をやるだけで精一杯。わからないことが雪だるま式に増えていき、このまま惰性で通っては授業料がもったいないと思い、次の学期はお休みすることにしました。パリに暮らしていたこともあるマダムは、私よりもずっとずっとフランス語が上手なので授業中に何度も助けてもらいました。撮影で授業に出られなかった時もノートを見せていただいたりとお世話になりっぱなし。
足を向けて寝られないわと思っていたところ、マダムからは「私は、繭子さんがいたから頑張れたわ」と有難いお言葉をいただきました。何でも初めての授業で、近くの人と組んで会話の練習をする際に、みんながモジモジとまわりを伺っている中で、私が「はい!じゃあ、最初は私が店員をやるので〇〇さんはお客さんで!」とちゃきちゃきと仕切り始めたのを見て、若いのに頼もしい子だわと思ったそうです。まあそのあとに若くないと知ってさらに驚いたとは思いますが。そんなマダムの横で、私は相変わらずひたすら「美味しい!」と繰り返していたわけですが、せっかくだったら「セボン!」と言うべきだったなあと思うのです。よし、次のごはん会ではぜひそうしよう。そしてマダムにはお土産にカヌレを持って行こう。
(西山繭子)
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