“【お便り募集】文筆家ひとみしょうさんにあなたのお悩み解決してもらいませんか?”にお悩みを送ってくれた方の中から、ピックアップしてひとみしょうさんが解決していきます。
<目次>
〜「マリコさん 40歳」のお悩み〜
はじめまして!
人それぞれとは思いますが、男性視点のご意見を伺いたくお便りさせていただきました。
仕事の関係で付き合いのある、10歳年上の微妙な距離感の男性がいます。
お互い結婚していますが、双方知り合う前から別の理由で離婚を考えている状況で、気持ちを言葉にはしていないものの、月一くらいのペースで2人で飲み、ざっくばらんに語り合い、別れ際にキスをするということが数回あるような間柄で、体の関係はありません。
しかし先日、いつものように2人で飲む日程を調整しようとしたところ、もう2人きりは止そうと言われました。
残念ではありましたが複数で飲むことにして、楽しく飲んだ帰り道、2人きりになる機会がありました。
彼から手を繋いできたのですが、それだけだったので、「チューしないの?」と尋ねてみても、「怖いからダメ」と言い、私をたしなめるように、頭をポンポンされてお別れしました。
急な変化は私からすると全く心当たりがないのですが、一緒に過ごすと楽しいし、複数ならよいようなので、友達として付き合っていこう!と気持ちを切り替えようと思っています。
にも関わらず、以前よりもさらに優しく接してきたり、連絡がマメになったりしていて、なんと言いますか、追われているような気がしてしまうので、勘違いだよなぁと自惚れを打ち消したり、大体怖いってなんじゃー!とモヤモヤします。
女としては、嫌ならガッツリ突き放してもらいたいところなのですが、男の人は迷惑でも優しさから強く突き放せなかったり、突き放すのが申し訳ないという気持ちで優しくなったりするのでしょうか?
また、彼の言う「怖い」とは、優しくされて勘違いしてしまいそうな私を、地雷チックな危ない女だと思っているということでしょうか?
〜ひとみしょうさんのお悩み解決コラム〜
怖いというのは、これ以上マリコさんのことを好きになってしまったら、自分が自分でなくなるような気がしてくるから怖い、ということです。
これ以上マリコさんのことを好きになってしまったら、お互いの家庭を壊してしまいかねないから怖いとか、あるいは、奥さんにバレそうだから怖い、などという男の100%の保身とも解釈されがちな、男がいう「怖い」ですが、ぼくは、これ以上マリコさんのことを好きになってしまったら、自分が自分でなくなるような気がしてくるから怖いということだろうと思います。
未知の領域に足を踏み入れた彼
つまり、彼はマリコさんのことが好きすぎるほど好きなのだけれど、その気持ちに正直に生きるということは、彼にとって未知の領域に足を踏み入れることと同義なので、怖いと言っているのです。
だから彼は、怖さゆえいわば身動きできなくなった自分に対する罪滅ぼしとして、<以前よりもさらに優しく接してきたり、連絡がマメになったりして>いるのです。
自分の本当の気持ち(マリコさんのことが大好きだ!)を無理に抑えこむと、その反動がきます。こっちを押したらあっちが飛び出るみたいに、ちゃんと反動がきます。
その反動がつまり、罪滅ぼし的な行為、すなわち<以前よりもさらに優しく接してきたり、連絡がマメになったりして>いるということなのです。
恋は人を孤独にさせる
男によらず女性も、どのタイミングで相手のことを好きになりすぎて、それゆえ怖いと思うのかは人それぞれであるはずです。そしてそのタイミングは、本人にしかわかりません。だから恋は人を孤独にさせるのです。
<(彼の気持ちの)急な変化は、私からすると全く心当たりがない>と、マリコさんは書いていますが、これはまさに、人は相手が想像もつかないことをきっかけとして、相手のことを好きになりすぎ、同時にその気持ちを自制しようとする、ということの現れでしょうね。
彼はいま葛藤しています
彼はいま葛藤しています。
マリコさんのことが大好きで大好きでしかたなく、だから家庭を顧みることなくこのままマリコさんと突っ張りたいという衝動と、それを自制する気持ちとが、彼の心の中で葛藤しています。
なので、<女としては、嫌ならガッツリ突き放してもらいたいところなのですが>とマリコさんが思っても、彼はマリコさんのことが大好きだから、ちょっと突き放すことしかできない、というのが実情なのです。
より厳密に言えば、彼はマリコさんのことが好きだから、というよりも、先に書いたように、自分の気持ちと葛藤しているから、マリコさんのことをちょっとだけ突き放しているのだ、と言えます。
彼はマリコさんのことを<迷惑>とは思っていない
つまり彼は、マリコさんのことを<迷惑(な存在)>とは思っていないのです。
彼にとって迷惑なのは、葛藤してしまう自分自身です。
マリコさんのことが好きなら、いわば器用にマリコさんとうまく遊び、お互いに心身ともに満足&納得するようにするという選択肢もあるはずです。お互いにオトナなのだから、そうしようと思えばそうできるはずです。
がしかし、彼はきっと、とてもマジメな人なのでしょう。
これ以上好きになり過ぎるとヤバいぞ、これ以上マリコさんのことを好きになってしまうと、地に足がつかない生活を送るハメになってしまって、これまで築き上げてきたすべてを失ってしまうぞ、というような恐れを持ってしまっているのです。
さらに、そのように恐れている自分を、もうひとりの別の自分が「そんなに心配しないで、もっとアクセルを踏みなよ。キスしなよ。ラブホにでも行ってマリコさんの心身を満足させてあげなよ」とけしかけているのです。
このような2人の自分の間に生じている葛藤を、さらにもうひとり別の自分が見て、マリコさんに「もう2人では会わない」と言ったり、「キスしない」と言ったりしているのです。
「ゆらぎ」が、生きていることそのもの
つまり、彼の中には、都合3人の自分(彼)がいるのです。
アクセルを踏みたい自分と、それを自制する自分、さらに、それら2人の自分が葛藤しているのを見て、現実の彼を操っている自分、の3人です。
どれが本当の自分(彼)なのですか? と尋ねないでくださいね。
どれが本当の自分なのかは、哲学の世界においてもいまだ決着がついていないのです。哲学の世界には「<私>ってなんだろう」という問いがはるか昔からあり、現在でも明確な答えは出ていません。
一般に、出ているとされる答え(のようなもの)は、葛藤する自分を見て、葛藤する自分がいる――そのような「ゆらぎ」が、生きていることそのものだ、というものだと、ぼくは認識しています(キルケゴールやハイデガーあたりがそう言っていると、ぼくは解釈しています)。
マリコさんも彼も、ぼくも、さらにはこれをお読みの読者も、ゆらぎつつ、どうにか生きていくしかなさそうです。
つらいときもあると思うけど(とくに彼は!)、みんなで頑張って生きていきましょう!
(ひとみしょう/作家)
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