「妊婦健診でHIV感染が発覚…」こういったことは、実際にある話です。このような状況になったら、自身の体はもちろん、母子感染についても非常に心配になると思います。この記事では、妊婦さんがHIV感染を発覚した場合の赤ちゃんへの影響や対策について、分かりやすく解説します。
1.妊娠健診とHIV検査
・初期検査でHIV検査を行う
産婦人科では、妊娠3カ月ごろまでに妊婦健診の初期検査を行います。 この検査には、HIV検査を含む性感染症や、肝炎の検査などが含まれています。
検査の結果、HIVに感染していることが分かると、 そのまま無治療で出産すると母子感染のリスクがあるため治療を行います。
・適切な治療で母子感染を防げる
HIVに感染している妊婦さんが、無治療のまま出産すると30~40%の確率で母子感染します。 しかし、妊娠初期に感染が分かり適切な対策を取ると、母子感染の確率を1%以下にまで抑えることができます。
つまり、妊娠中にHIV感染が発覚しても、適切な治療を受ければ母子感染を防げるというわけです。
では、具体的にどのような対策をとるのか、「妊娠中」「出産時」「出産後」に分けて見ていきましょう。
2.妊娠中の対策
・抗HIV薬を服用
まずは、妊娠中に行う母子感染対策についてです。 ここでの対策は、「抗HIV薬」です。
妊婦さんがHIVに感染している場合、妊娠14週目以降から抗HIV薬を飲み始めます(妊娠14週目よりも前だと、奇形児が生まれるリスクがあるため)。
抗HIV薬を飲むことで、エイズウイルスの増殖を抑えて、母子感染を防いでいくわけです。
抗HIV薬は20種類以上あり、赤ちゃんに悪影響を与えないお薬を3~4種類組み合わせて服用(多剤併用療法)するのが一般的です。
「妊娠中はなるべくお薬を飲みたくない」という気持ちもわかります。 ただし、HIVに感染している場合は、飲まないリスクの方が圧倒的に大きいです。
産まれてくる赤ちゃんのためにも、決められた用法・用量を、必ず守るようにしてください。
3.出産時の対策
・予定帝王切開と抗HIV薬を点滴
続いて、出産時に行う母子感染対策についてです。 ここでの対策は、「予定帝王切開」と「抗HIV薬の点滴」です。
HIVに感染している妊婦さんが出産をする場合、「経膣分娩」ではなく「予定帝王切開」を行います。
予定帝王切開とは、分娩日をあらかじめ決めて行う帝王切開のことです。
陣痛が始まると、お母さんの血液が胎盤を通して子宮内の赤ちゃんに触れて、HIVに感染してしまうリスクがあります。 これを防ぐために、陣痛が起こる前に計画的に帝王切開をして赤ちゃんを取り出すのです。
また、分娩時には抗HIV薬を点滴し、体内のエイズウイルス量を可能な限り少なくしていきます。
4.出産後の対策
・血液検査を実施
赤ちゃんを出産した後は、赤ちゃんの血液検査を行いHIVに感染していないかどうかを調べます。
この検査は、まずは「生後48時間以内」「2週間後」「2カ月後」「3~6カ月後」の合計4回行い、結果がすべて陰性なら90%の確率で母子感染していないと言えます。
最終的な診断は、生後1年6カ月後に行われ、この検査で陰性になると母子感染は完全に否定されます。
5.育児の注意点
・母乳での育児はできない
無事に赤ちゃんを出産できた場合でも、注意すべきポイントがあります。
エイズウイルスは母乳にも含まれているため、赤ちゃんには母乳ではなく粉ミルクで育てていく必要があります。
・赤ちゃんも抗HIVを服用する
また、生後6週間は、赤ちゃん自身も抗HIV薬(シロップ)を飲む必要があります。
6.最後に
妊娠中にHIV感染が発覚した場合でも、医師による適切な治療を受ければ、母子感染のリスクを1%未満まで抑えることが可能です。
妊婦検査でHIV検査を受けるのは義務ではありませんが、万が一のことを考えて、必ず受けるようにしてください。 妊婦さんのHIV感染が分かった場合は、夫も感染しているリスクがあります。必ず検査を受けるようにしてください。
また、お母さん自身のHIV治療は出産後も続きます。 今の時代、HIVは死の病ではなく、上手に付き合っていける病気です。症状を進行させないように、医師の指示のもと治療を受け続けてください。