
セックス・妊娠・出産に関する医学的に正しい情報を学校や日常生活で学ぶ機会は意外と少ないです。性行為から妊娠、出産に至るまでの“知っているようで知らない”正しい知識を、悩める女性へ向けて産婦人科医であり性科学者である宋 美玄(そん みひょん)先生が、優しく解説します。
おめでた婚、授かり婚というけれど…
最近は「おめでた婚」「授かり婚」という言葉をよく聞きます。昔は、結婚するよりも先に妊娠することは「できちゃった婚」などと呼ばれ、恥ずかしいこととされていました。しかし最近では、少子化のためかいいイメージを植えつけようと「おめでた婚」「授かり婚」などという言葉が作られ、使われるようになったのです。
個人的には結婚が先でも、妊娠が先でもどちらでも構わないと思っているのですが、大事なのは、その妊娠が、二人が積極的に望んだものだったのか、ということだと私は思います。
女性だけでなく男性も積極的に望んで妊娠すべき
WHOの提唱するウィメンズヘルス(女性という性を全人的に考え、そのあるべき姿を追求する思想とその実現に向けた行動指標)の大原則として、女性は自分で積極的に望んで妊娠すべきだというのがあります。「アクシデント的に妊娠してしまった」とか「望んでいなかったのに相手に妊娠させられてしまった」というのではなく、女性は自らが望んで妊娠すべきだというものです。
これは、当然のこととして、私は女性だけでなく男性も積極的に望んで妊娠すべきだと考えています。もちろん、妊娠出産には死亡を含むリスクがあるということや、子育ては自己犠牲を伴う責任重大な長い道のりであることがその理由です。
生まれてくる子供の五分の一の命が中絶されている
日本のここ数年の年間出生数は100万人を少し上回るくらいですが、中絶されている赤ちゃんの数は実は20万件近いのです。生まれてくる子供の五分の一にあたる数の命が、その裏で中絶されているということは驚きに値すると思います。
産婦人科医をしていると、いろいろな患者さんのドラマを垣間見ることがあります。結婚する前に妊娠してそのまま彼氏と結婚する人もいますが、中には、彼氏に「結婚はいただ」と言われて悩み抜いた挙句、ひとりで育てることを決意して産む人や、「産まないでほしい」と言われて泣く泣く中絶する人もたくさんいます。
「おめでた婚」といって持ち上げることで…
もしかしたら、中には「今日は安全日なの」という謎めいた誘惑のもと、彼氏とコンドームなしのセックスに持ち込み、妊娠して結婚を迫る女性も実在するかもしれません。そういう行動は個人的にはどうかと思いますが、実行するなら、たとえ相手に結婚を拒否されてもシングルマザーになってでも赤ちゃんを出産するぐらいの覚悟でやってほしい。
ですから、あまり妊娠してから結婚することを「おめでた婚」といって持ち上げることで未婚の女性の避妊がおろそかになってしまわなければいいのだけれど、と思っています。
参考文献:宋 美玄「学校では教えてくれないセックス・妊娠・出産の話 女医が教える 後悔しないために知っておきたい11の事」