

<目次>
1. 梅毒感染者は急増!?
ここ数年、国内で梅毒感染者の急増が問題になっています。 新規梅毒感染者は、2010年は621人/年でしたが、2013年から1,000人/年を超え(1,228人)、2015年には2,037人/年まで増えました。
・女性の割合が増加
特に女性の感染者が増えていて、2010年は全体の20%(124人)でしたが、2015年では全体の28%(574人)となっています。
梅毒が急増している現状に対して、厚生労働省はポスターを作るなどして、注意を呼びかけています。
2. 梅毒にかかる原因
梅毒に対して、「性病」や「怖い病気」というイメージは持っていても、具体的にどのような病気か知っている人は少ないと思います。
・主に性行為で感染する
梅毒とは、梅毒トレポネーマという病原菌が引き起こす性感染症です。 梅毒感染者の患部(皮膚や粘膜)に触れると、病原菌が皮膚や粘膜の目に見えない小さな傷口から侵入します。
梅毒は「皮膚や粘膜との直接接触」が原因になるため、主に感染者との性行為で感染します。
具体的には、性器と性器の接触(膣への挿入)、性器と肛門の接触(アナルセックス)です。
・アナルセックスに注意
特にアナルセックスは、感染リスクが高い行為です。 理由は、肛門内は膣内と比べて傷つきやすく、ペニスの挿入でできた傷口から病原菌が侵入してしまうからです。
女性の梅毒感染者が増えている理由は明らかになっていませんが、 男性同士だけでなく、男女のカップル間にもアナルセックスが広がっていることが考えられます。
・オーラルセックスやキスでも感染
また、梅毒は性器や肛門だけでなく、口にも感染します。 そのため、オーラルセックスで性器から口に感染することがあります。 さらに、相手が口に梅毒の症状がある場合は、キスだけで感染することもあります。
・母子感染もある
妊婦さんが梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児に感染することがあり、 死産、早産のリスクを高めたり、出産できた場合でも、奇形などの影響を与えることがあります。
3. 梅毒の症状
続いては、梅毒の症状についてです。
梅毒は感染期間によって1~4期に分けられ、それぞれ下記のような症状があらわれます。 ※男女ともに症状は同じです。
・第1期(感染3週間後)しこりやリンパ節の腫れ
梅毒に感染して約3週間すると、感染部位に小豆大の少し硬めのしこりができます(それまでは無症状です)。 そして、次第にしこりは硬く盛り上がり潰瘍(皮膚や粘膜が傷つくこと)ができます。
しこりができやすいのは、女性では大陰唇、小陰唇、子宮頸部。 男性では冠状溝(カリ首)、包皮、亀頭です。 唇や手や指にできることがありますが、ほとんどは性器にできます。
しこりができると、その後に太ももの付け根のリンパ節が腫れてきます。
これらが梅毒の第1期症状で、痛みやかゆみなどの自覚症状はなく、2~3週間で自然になくなります。 そして、第2期症状があらわれるまで無症状となります。
そのため、第1期で感染に気づくことはあまり多くありません。
・第2期(感染3カ月後)皮膚症状
梅毒に感染して約3カ月が過ぎると、病原菌は血液の流れによって全身に広がり、全身にさまざまな症状があらわれます。 特に皮膚に、下記のような特徴的な症状があらわれます。
– 薄ピンク色の丸いあざ
第2期症状で、最も早く見られる症状です。 薄いピンク色の丸いあざが全身にあらわれることから、「梅毒性バラ疹 」と呼ばれています。
痛みやかゆみなどの自覚症状がなく、数週間で自然に消えてしまうため、見過ごされることが多くあります。
– 盛り上がった硬い皮疹
バラ疹の後にあらわれます。 大きさは大豆から爪くらいで、少し盛り上がった硬い皮疹です。
最初は赤い色をしていますが、徐々に茶色をおびた赤になります。 上半身にたくさんできますが、顔面にも発生します。
– 白くかさかさした皮疹
上であげた「硬い皮疹」の一種です。 手のひらや足の裏に硬い皮疹ができると、乾癬という皮膚の病気によく似た症状になるため、「梅毒性乾癬 」と呼ばれます。 白くかさかさしていて、はがれやすいのが特徴です。
– 肛門周囲にできる平たいイボ
これも「硬い皮疹」の一種です。 外陰部や肛門付近のように、皮膚や粘膜が向き合っている場所に硬い皮疹ができると、表面がただれて分泌物が出てくるようになります。 この状態を、「扁平 コンジローム」といいます。
分泌物の中には病原菌が大量に含まれていて、性行為で梅毒に感染する大きな原因のひとつとなっています。
– 髪の毛が抜ける
感染6カ月頃から、頭部に直径5mm~2cm程度の虫食い状の脱毛が多発して、徐々に頭部全体に広がります。
・第2期で感染に気づくことが多い
第2期では、感染後3カ月~3年にわたって、皮膚にこのような症状があらわれます。 症状は自然に消えてしまいますが、特徴的な皮膚症状のため、この時期に感染に気づいて治療を受けるケースが多くあります。
そのため、続いて説明する第3、4期の症状は、現在ではほとんど見られません。
・第3期(感染3年後~)
梅毒に感染して3年以上経過すると、皮膚だけでなく、筋肉、骨、腎臓、肝臓などが病原菌のダメージを受けて、「ゴム腫」ができるようになります。
ゴム腫というのは、硬いしこりやゴムのような腫れ(腫瘍)のことで、ゴム腫ができた周辺組織を破壊してしまいます。 治療をしても傷跡が残ってしまうことがあります。
・第4期(末期)
さらに症状が進行すると、中枢神経系や心臓血管系がダメージを受けて、大動脈瘤や痴呆、歩行麻痺など深刻な症状があらわれます。 ここまでくると日常生活が困難になり、やがて死に至ります。
4. 病院での検査
・検査は婦人科や皮膚科で受ける
梅毒に感染しているかどうかは、検査を受けることで分かります。 梅毒を疑う症状があったり、感染の不安がある場合は、まずは検査を受けるようにしてください。
梅毒の検査は、婦人科や皮膚科で受けることができます。 問診、検査方法、費用について簡単に紹介します。
・問診
病院に行き受付を済ませると、まず問診が行われます。 問診では、症状についての質問だけでなく、性体験の有無、セックスパートナーの数、コンドームの使用の有無、ピルの服用歴などを聞かれることがあります。
質問に答えるのに抵抗があるかもしれませんが、診断する上で大切な情報になります。正確に答えるようにしてください。
・検査
検査では、微量の血液を採取します。 梅毒に感染すると、血液の中には抗体(異物である病原菌を排除しようとする物質)が作られます。
そのため、血液の中に梅毒に対する抗体があるかどうかを確認して、梅毒感染の有無を調べます。
ただし、抗体ができるまでは感染してから数週間かかるため、 その前に検査を受けると、感染していても「陰性」と出てしまうことがあります。
正しい検査結果を得るために、梅毒の検査は、感染の疑いがある日から6週間以降に受けるようにしてください。
・費用
梅毒検査の費用は、病院や検査方法によっても異なりますが、全額自己負担の場合で2,000円~1万円程度です。
何らかの症状が出ていたり、検査結果が陽性だった場合などは、その後の治療費も含めて健康保険が適用となります(3割負担)。 一方、症状がなくて検査を受けて陰性だった場合は、健康保険が適用されません。
5. 病院以外での検査
梅毒の検査は、保健所や検査キットで受けることも可能です。
・保健所
保健所なら無料・匿名で、梅毒検査を受けることができます。
ただし、検査の実施日が限定的(週1回や月1回など)であったり、受けられる人数も限られていたりします。 そのため、自分の希望する日時に検査が受けられる保証はありません。
また、保健所によっては、梅毒の検査自体を行っていないところもあります。 検査を希望する場合は、最寄りの保健所に確認するようにしてください。
・検査キット
検査キットをご存じですか。 検査キットを使えば、病院に行くことなく梅毒に感染しているか調べることができます。
検査キットはメーカーのウェブサイトなどから購入でき、費用は梅毒単体で3,000円程度。 梅毒以外の性感染症(HIV、クラミジア、淋病など)もまとめて調べることができ、その場合は2万円程度です(料金はメーカーによって異なります)。
梅毒に感染しているとHIV感染のリスクも高まるため、HIV感染も併せて調べておくことをおすすめします。
また、検査キットでは、自分自身で血液を採取することになりますが、やり方は簡単です。 こちらの記事で、検査キットの体験談を詳しく紹介しているので参考にしてください。
6. 梅毒の治療と治療期間
検査の結果、梅毒への感染が分かったら治療を行います。 梅毒の治療では、病原菌に効果のある抗菌薬(ペニシリン)を服用します。
・治療開始が早いほど治療期間は短い
梅毒の症状(1~4期)によって治療期間は異なり、治療開始が早いほど期間は短くなります。
– 第1期(感染3週間後)に治療を受ける
抗菌薬を2~4週間服用します。治療期間は最も短いです。
– 第2期(感染3カ月後)に治療を受ける
抗菌薬を4~8週間服用します。
– 第3期(感染3年後~)に治療を受ける
抗菌薬を8~12週間服用します。
– 第4期(感染後10年~)に治療を受ける
完治は難しいです。
※現在では、第3期以降まで進行するケースはめったにありません。
7. 治療期間中に気をつけること
梅毒の治療期間中には、気をつけるべきことがいくつかあります。
・定期的な検査を受ける
梅毒治療の基本は抗菌薬を飲むことですが、それだけではありません。 定期的に診察や検査を受けることが大切です。
症状が良くなったからといって、自己判断で治療を止めることは、再発や悪化を招く原因になります。 完治したかどうかは、医師に判断してもらうようにしてください。
・完治するまで性行為を控える
梅毒が完治するまで、性行為は控えてください。 体に病原菌が残っていると、相手にうつしてしまうリスクがあります。
オーラルセックスやアナルセックスなども控えてください。
・パートナーも検査を受ける
パートナーのうちどちらかが梅毒に感染していた場合、もう一方にも感染が疑われます。 必ずパートナーにも感染の事実を伝えて、ふたりとも検査を受けるようにしてください。
8. 梅毒の予防法
梅毒は完治させても、再感染することがあります。
上でも書きましたが、梅毒に感染しているとHIVの感染リスクが高まります。 梅毒による潰瘍がある場合、HIV感染リスクは男性で10~50倍、女性では50~300倍も高まることが分かっています。
梅毒は治療で治せますが、HIVは現在の医療では完治できません。 梅毒予防はHIV予防にもつながるため、普段からしっかりと梅毒予防を心がけてください。
・性行為ではコンドームを使う
梅毒予防の基本は、性行為のときにコンドームを使うことです。 100%予防できるわけではありませんが、コンドームは梅毒だけでなく、HIVやクラミジアなどの性感染症予防にも有効です。
ピルを飲んでいる場合や、妊娠の心配がないアナルセックスの際にも、コンドームは必ず正しく使うようにしてください。
・性行為の相手はひとりにする
性行為の相手が複数いるほど、梅毒の感染リスクは高くなります。 「ナンパで出会った男性とセックスをして性病をうつされた…」というのはよく聞く話です。
梅毒をはじめとした性感染症予防のためには、不特定多数との性行為はしないようにしてください。
・相手の性器や体をよく確認する
梅毒に感染していると、ペニスのカリ首部分に潰瘍ができることがあります。 また、全身や手足にピンクの発疹ができることがあります。
彼の性器や体にこのような症状があったら、梅毒を疑ってみてもいいかもしれません。 当然、その場合は性行為を控えてください。
・清潔な状態で性行為する
性器や皮膚などには、さまざまな雑菌が付いていることがあります。 性行為の前にはシャワーを浴びて、清潔な状態で行うようにすることが大切です。
汚れた指や伸びた爪も、膣内を傷つけたり炎症を起こす原因になり、そこから病原菌に感染しやすくなります。
・彼を風俗に行かせない
梅毒は風俗で感染するケースもあります。 風俗に行ってフェラチオサービスを受けた男性が、性器に梅毒を感染してしまうというわけです。
当然、その後に彼と性行為をすれば、梅毒に感染するリスクは非常に高まります。
・定期的に性病検査を受ける
梅毒は皮膚に症状が出る病気ですが、痛みがなかったり、自然に症状がなくなったりと、感染に気づきにくい病気でもあります。 そのため、「知らないうちに感染し、知らないうちに広めていた」というケースも十分に考えられます。
梅毒の予防や早期発見のために、たとえ症状がなくても定期的に梅毒検査を受けることは大切です。 特に、妊娠を考えたら、妊活を始める前に受けておくと安心です。
9. 最後に
梅毒はここ数年、感染者が急増している病気です。 特に女性の感染者の割合が増えてきています。
梅毒は治療で治せますが、感染するとHIV感染リスクも高めてしまう怖い病気です。 気になる症状や不安に思うことがある場合は、できるだけ早く検査を受けるようにしてください。


出典:あなたのオンライン婦人科 Rucora[ルコラ]