おりものが泡っぽくて悪臭がしたり、膣に強いかゆみを感じたら、「膣トリコモナス症」の疑いがあります。あまり馴染みのない病名かもしれませんが、性感染症のひとつです。
この記事では、膣トリコモナス症の原因、症状、治療法、治療期間中の注意点などをわかりやすく解説します。
<目次>
膣トリコモナス症とは?
「膣トリコモナス症」という病気を知っていますか。
膣トリコモナス症とは、「トリコモナス」という肉眼では見ることができない小さな虫が、性器内に感染して炎症などを起こす性感染症です。 クラミジアや梅毒に比べてあまり名前が知られていませんが、性感染症の中ではポピュラーな病気のひとつです。
・主に性行為で感染する
膣トリコモナス症の主な感染原因は、「性行為」です。
感染者と性行為をすると、女性なら膣内にトリコモナスが侵入して、「膣」やその奥にある「子宮頸管」などに寄生します。 一方、男性は、「前立腺」や「精のう(精液の成分をつくる器官)」に寄生するケースが多くあります。
・日常生活でも感染する
膣トリコモナス症の病原体であるトリコモナスは、「乾燥には非常に弱いけれど、水中では長時間生きることができる」という特徴も持った小さな虫です。
そのため、性行為による直接的な接触以外でも、感染者が使った浴槽、便器、タオル、下着などから間接的に感染することもあります。 ほかの性感染症と異なり家族間での感染もあり、性交経験のない幼児や、年配の方の感染も報告されています。
膣トリコモナス症の症状
続いては、膣トリコモナス症の症状を見ていきましょう。 まずは、女性の症状からです。
・女性の症状
トリコモナスが膣内に侵入すると、それまでバランスの取れていた膣内環境が乱れて雑菌が繁殖しやすくなり、トリコモナス以外にもさまざまな雑菌が増えてしまいます。 その結果、下記のような症状があらわれます。
・おりものの量が増える
・泡状・悪臭のおりものになる
・おりものの色が黄色や黄緑になる
・外陰部や膣に強いかゆみや痛みを生じる
・排尿痛が起こる
・膣内が炎症で赤くなる
この中でもっとも多いのが「おりものの量が増える」で、感染者の56%に見られます。 下着に付いたおりものの異常で、感染に気づくケースが多くあります。
上記のような症状は、トリコモナスに感染して4日~1カ月後にあらわれます。
<症状があらわれないケースもある>
症状は、感染者すべてにあらわれるわけではありません。 感染者の20~50%は、1カ月を過ぎても何も症状があらわれないと言われています。
ただし、そのうちの約1/3は、感染から6カ月以内には何らかの症状があらわれるとも言われています。
<不妊症の原因になることも>
症状がなかったり、軽い場合でも安心はできません。 トリコモナスが寄生しているのに治療を受けないでいると、炎症が膣よりもさらに奥の卵管まで進み、不妊症の原因になることがあります。
また、妊婦さんが膣トリコモナス症にかかっていると、早産や流産の原因になることがあります。
・男性の症状
女性ではさまざまな症状があらわれる膣トリコモナス症ですが、 男性は感染しても目立った症状が出ることはあまりなく、無症状の場合がほとんどです。
尿道炎を起こして、尿道から膿が出たり、軽い排尿痛を感じることがありますが、排尿によってトリコモナスが洗い流されて自然に治ってしまうこともあります。
<知らないうちに女性にうつしてしまっている>
このように男性では症状がまったくない、もしくは軽い場合がほとんどのため、 知らないうちに女性に感染させてしまうケースも珍しくありません。
検査はどこで受ける?
・女性は婦人科で、男性は泌尿器科や性病科
膣トリコモナス症を疑う症状があったり、感染の不安がある場合には、検査を受ける必要があります。 女性は婦人科で、男性は泌尿器科や性病科で受けることが一般的です。
膣トリコモナス症にかかると、女性は特徴的な症状があらわれるため診断は比較的簡単ですが、 確実に診断するために膣分泌液を採取して、顕微鏡などでトリコモナスがいるかどうかを確認します。
膣分泌液の採取は、長い綿棒のようなものを膣内に入れて軽くこするだけなので、痛みもなくすぐに終わります。
男性の場合は、尿を採取して検査を行います。
膣トリコモナス症の治療法
・自然治癒は期待しない
検査の結果、膣トリコモナス症であることが分かったら治療を行います。 男性なら尿道だけの感染の場合、自然治癒するケースもありますが、女性での自然治癒は期待できません。
そのため、医師の指示に従って、適切な治療を受けるようにしてください。
・治療薬を10日間飲み続ける
治療では、「メトロニダゾール」という治療薬を10日間飲み続けて、トリコモナスを殺虫します。 体内からトリコモナスがいなくなると、乱れていた膣内環境が整い、おりものの異常やかゆみなどの、さまざまな症状が改善されていきます。
女性で治りにくいケースでは、膣錠(膣内に入れるお薬)を使うこともあります。
お薬を服用して、膣トリコモナス症による自覚症状がなくなり、かつ、顕微鏡の検査などでトリコモナスがいないことを確認できたら、治療終了(完治)となります。
・月経後に再検査を受けることも大切
女性の場合は、次回の月経後にも再度検査を受けてトリコモナスがいないことを確認することをおすすめします。
理由は、膣内や子宮頸管にわずかでもトリコモナスが残っていると、月経血によって増殖する恐れがあるためです。 そのため、月経後に検査を受けないでいると、トリコモナスが増殖して症状が再発する可能性があるのです。
再発を招かないためにも、次回の月経後には再度、医師による検査を受けてください。
治療期間中の注意点
治療期間中は、下記のような点に注意してください。
・お酒を控える
治療薬(メトロニダゾール)を服用しているときにお酒を飲むと、 「腹部の仙痛 (急性の腹痛)」、「嘔吐」、「潮紅 (皮膚が赤くなること)」などが起こることがあります。 そのため、お薬の服用期間中(10日間)と服用後3日間の合計13日間は、お酒を控えるようにしてください。
・パートナーにも検査・治療を受けてもらう
恋人や夫婦のうちどちらかがトリコモナスに感染していると、もう一方も感染している可能性が高いです。 特に男性は症状が出にくいので、女性がせっかく治療を受けて完治させても、男性が感染したままだと、女性に再感染させてしまうリスクがあります。
症状のあるなしに関わらずに、お互い検査・治療を受けることが必要です。
・治るまで性行為は控える
膣トリコモナス症は、主に性行為で感染します。 そのため、治療期間中は性行為を控えて、お互い完治してから行うようにしてください。
・タオルの共有は控える
家族や恋人間でバスタオルなどを共有すると、タオルを介してトリコモナスが感染してしまう可能性があります。 治療期間中のタオルの共有は、控えてください。
トリコモナスでHIV感染リスクが高まる?
ここまで記事を読んで、「膣トリコモナス症は、そんなに怖い病気ではないのでは…」という印象を持った人もいるかもしれません。 治療薬を飲めば治せるし、また、男性の場合は、かかっても症状があらわれないケースが多くあります。
しかし、だからといって気楽に考えていい病気ではありません。
・HIV感染リスクが2~3倍になる
実は近年、膣トリコモナス症とHIV感染との関連が注目されています。 膣トリコモナス症にかかっていると、HIVの感染率を2~3倍に高めると言われているのです。
膣トリコモナス症ならお薬で完治できますが、HIV感染症は完治できるお薬がありません。
HIV感染を予防するためにも、膣トリコモナス症の疑いがある場合は、すぐに検査・治療を受けるようにしてください。
・コンドームで再感染予防
また、治療を終えた後は、再感染を防ぐために、性行為の際にはコンドームを使うようにしてください。 コンドームは膣トリコモナス症だけでなく、クラミジアや梅毒、HIVなどの予防にも有効です。 ピルを飲んでいる場合でも、コンドームを使うようにしてください。
最後に
膣トリコモナス症にかかると、おりものの量が増えたり、泡状・悪臭のおりものになったり、外陰部や膣に強いかゆみや痛みを感じたりすることがあります。 女性が感染していた場合は、男性も感染している可能性が高いことを理解して、ふたりとも治療を受けるようにしてください。


出典:あなたのオンライン婦人科 Rucora[ルコラ]